メガザル(瞳の住人)

こんにちは、末期です。

 今日はとうとう最後の日です。

僕は昨日、公言したように リモートコントロールで自宅PCにアクセスし、最後に残ったexeファイルを実行してみました。     しかし‥  「あれ?何も起こらない」

 拡張子は たしかにexeのはずなのに、おかしいです


 僕は今回の事件の全てを解くカギが、このファイルにあると踏んでいました


 ・パンドラの箱の伝説のように、箱を開けると 世のなかの ありとあらゆる悪や災いが起こり、主人公は悲しみます。

 しかし最後に、箱のなかに残ったのが「希望」という名の力だったそうです


 だから僕も 最後の最後で 幸運のラッキーカードを引き当てて、一発逆転の人生が待っていると思ったのですが、どうやら考えが甘かったようです


 これはあとで分かったことなのですが、最後に残った拡張子exeファイルは拡張子が偽装されていて中身はただのpdfファイルだったそうです


 まあ それはよしとして‥。

 思わず肩すかしを食らった僕は落胆の表情を浮かべながて、ネカフェを出ました



  もう此処に戻ってくることはないでしょう。



 外に出た僕はあてもなく夜の繁華街をうろつきます、ふらふらした足取りで‥

 
  どこからともなく若者達の笑い声と ひやかしが聞こえます。 多分僕のことを笑っているのでしょう


 坊主頭に よれよれのTシャツ、顔色は血色が悪くて青白く メガネをかけていて、僕一人だけ この場で浮いてしまっています。


 前方101m先のほうから歩いてくる若いカップル、それも いかにもホストっぽい男性と キャバ嬢でしょうか、長い髪にパーマで ウェーブを付け 派手なメイクをした女が、大声で僕を罵ります


 「ばっかじゃねーの、あいつ。キモいんだよ、死ね」


 
 こうゆう罵倒は昔から言われ馴れていて いつもなら何事もなかったかのように平静を装うことが出来たはずなんですが‥


 ですが、このときは精神的にも限界で 自暴自棄になってて、コイツらを刺してやろうと ダイソーで買った刃渡り15センチの小型包丁を紙袋のなかに隠し持っていました。  


 
  右手を袋のなかに突っこみ しっかりと柄を握りしめています


 何もしらない獲物は 呑気に鼻歌なんぞを歌いながら近づいてきます


 10m‥  8m‥  5m‥


  そして チャンスが訪れます


  3m‥   2m‥   とうとう獲物は僕の射程距離範囲に入りました


 よし、いまだ。



  僕がタイミングを計り いままさに飛びかかろうとした瞬間、僕の動きが止まりました


 自分でもいったい何が起こったのか分からなかったのですが、いつの間にか僕の周囲の人口密度だけが やけに高くて まるで都会の朝の満員電車なみに ギューギュー詰めでした


 
 よく見ると、周りには 見たことのある人達がいます

 混濁する意識のなかで必死に思考を周巡させると、約1週間前に僕が お金を借りた事務所の人でした


 彼らは、僕のからだに何やら冷たくて硬くて鋭利なもので僕の体をいっせいに貫いているのでした


 次の瞬間、僕のからだから ものすごい勢いで血しぶきが吹きとびます。

 その様子が なんだかまるで噴水のようで綺麗です


 僕は口から血で赤く染まった泡を吹きながら、膝のあたりから一気に地面に崩れ落ちました


 そして その数分後‥   



    僕は死にました



 だから いまの僕は僕であって僕ではないです



 上手く説明出来ないけど、僕はいま エクトプラズムのような存在です



  これは死んでから気付いたことなんですが、幽霊ってPCのなかに入りこんで操作が出来るんです




    便利でしょう?w



 いまも こうして僕は幽霊になりながらも、他人のPCに入りこんで、こんなくだらない文章を打っています



  僕は いわば 君達の「瞳の住人」 です



 この状態が 僕が生前一番臨んでいたことかもしれない。  
 だから その意思が天に伝わって 「あの事件」が引き起こされたのかもしれない‥  と思うと全て合点がいくのです


 だから いまはまったく後悔してません



   僕は これからも君達の


   
   「瞳の住人」      ‥なのだから

                             完